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大菩薩峠ふたたび   村松仁淀

「力の観念は単純からほど遠い」                                                                                                                        ――ヴェイユ


Ⅰ.

  
南海酔鯨/宴たけなはに/手酌みのさかづき
迷妄翻つて/武蔵野にあり
浮き腰の/或ひは正直の/裸相撲の
仰ぐ天蓋に/また武蔵野あり
思ひ違へぬ/面影ぞあれど/桑畑
川舟は登戸/われなんじと/頬被り/開墾す
  
悲しや悲しや/武蔵野のひと
悲しや/あな悲し/たま川宿
  
「寝タバコは/ご遠慮ください」
硝子戸へ/日向かし望めば/忘れまじ
埋火やむずばん/やけひばち、と/塵灰ただ
舞って/しわぶきの/むさし野/悲しや
あな悲し、と/袖浸つ/秋冬/「やり直そう
言はぬおまへに/ふたごころなし――」
  
土やその上に居並ぶ雑木といったものどもは
存外インダストリアルな感じもする



  
  
  
Ⅱ.

  
〝例えば誰かに親しみを覚えるとき
喜劇役者は言う、さらば恋人よ、などと――
で、それを見ていた演劇通が「まずいな」と
言う――もちろんこういうのは
よその国の作法だ――おれは自分の国を
覆い尽くす呑気な馴れ合いが大好きで
おれは批評家を殺したいほど憎んでいる
〝信頼と警戒心、涙と笑い、それらの間隙に
新しい生命が宿り、兄貴、兄貴とおれを
慕うから――まるで、錆びた釘を踏み抜いた
ようです――一緒に頭を下げてほしいのです
  
そういえばまだ
うなぎのお礼を言っていない
  
〝ましてやおれはクセノポンではなく
さらにいえばヒロポン中毒でもない
坊主頭のおれたち、当時、国鉄新宿駅前の
テントに並んで――GIが三人来た
DDTの粉を頭からぶちまけられた
殴られ、目から星も出た
〝ヨタヨタと歩くカモシカの仔の
わかりきった未来に乾杯!なんだそのツラは
反抗するなら身辺を固めてからにしろよな


  
  
  
Ⅲ.

  
高幡不動からモノレールの真下を南上
新奥多摩街道に左折してそのまままっすぐ
中神のココスで閉店までポール・ド・マンと
格闘、それがすべてだ、干渉はやめてくれ
  
有線放送が「蛍の光」、当店はあと
十五分ほどで閉店となります、
おそれいりますがドリンクバーのご利用は
お早めにお願いします、「寝タバコも
どうかご遠慮ください」「そして嘘でも
いいからどうか粛々としていてください」
紫色のショールが記憶のむこうでなつかしく
パラパラと肩へこぼれる冬入りの雪は
追憶のあちらこちらでなつかしく
ハンドルに掛けた紙袋からのぞく
ヴォルテール、諷刺詩はあまり有名ではない

〝つまりこれはスタジアム級の諷刺なのだ
ヴォルテールが生活へ押し込みに入ったのだ
そして火付け盗賊改め方、長谷川平蔵である
そしてフィナーレで全員出てきて脱帽である
〝盗賊はおれたちが思うほど馬鹿じゃない
モールス信号で逐一報告をおこたるな
〝うなぎのお礼なら年明けにでも言いますよ



Ⅳ.

バグダッドの裏路地を
苦い塩の袋担ぎトボトボと歩く男が見える
飛行機は墜落したのだろう

二十歳まえは上り調子だった
バタフライナイフで小僧を強請り
巻きあげたDVDが廊下に並んだ
木彫りの猿もニタリと笑い
暴力が、ぞっとするほど有効だった

だけど
関八州
無傷で済むような場所ではない

ビールを飲むとき、誰かが必ず泣く
脱走計画は遠くて熱海どまりだった
おれはバグダッドで義勇軍を結成するから、
そうは言うけれど親父の会社、
どうすんの
固定資産税とか

ゲット・グローバル・アズ・ユー・シュッド
バット・スモーラー・ザン・ユー・ホープ
ユー・アー、ウーララ、オーララ――

かれは愛人
地下鉄で耳鳴りがした
あんな見かけ倒しが
おまえを抱いたなんて
信じられない
あんな詐欺師は遭難して当然だ
おれはぜったいにあいつを許すつもりがない



Ⅴ.

わたしの心が葱ならば
刻んで蕎麦に添えてほしい、
わたしの心が生姜なら、ころころと太った
生姜ならば!
胃腸が弱いので
こんなにも愛おしいのかな
こんな夜中に背中を押すのはだれかな
赤ちゃんがいればよかったんだ
「化粧をして」「マチネーは今日で最後」
赤ちゃんがいればこんなではなかったはずだ
ゲット・グローバル・アズ・ユー・シュッド
バット・スモーラー・ザン・ユー・ホープ
ユー・アー、ウーララ、オーララさ



Ⅵ.

大菩薩峠とか小仏峠とか縁起でもない名前を
付けるのがいかにも辛気くさい
土地柄である
経かたびらを着た死人が夜ごと家々をめぐり
青白く腐った手で戸を叩くさまが
目に浮かぶようである

南国は太平洋に果てしなく開け
ずっと諦めねばサンタ・バーバラである
西国は無論天竺娑羅双樹を連想させはするが
それはしかしあくまで極楽浄土なのである

上水に注ぐ残堀川はなんとなし
落ち武者のザンバラ頭を思わせ
秩父武甲山ならばいかつい鉄兜だ
入谷の鬼子母神、ニコライ堂、おれたちが
見たものは悪鬼ベエルゼバブの眷属だった
胸を張って良いのだ

北国は白い恋人、時計台のしたでキスをする
東にはなにもない
将門の首塚で写真でも撮ろうか



Ⅶ.

〝いつかつかまえるぜベイビー
ウーハーがズンズンとやかましく
昼も夜もない――夜食の時間だ

ヴァンクーバーでは火鍋を食った
ボコボコと沸き立つ真っ赤なスープにおれは
ネギやラム肉や
海老、帆立貝、牡蠣、チンゲン菜をやたらに
ぶち込み
夢中で汗びっしょりで無言でそれを食った

二月堂の横のうどん屋で
精進うどんも食った
東京からはあんま学生さん来おへんからなあ
毛布貸したろか
京都のほうはどこ行かはったの
石油ストーブがほんのりと赤く燃えていたな

ブルーチーズに蜂蜜をかけて食べるやり方
あれはきみに習ったのだ
エリザベス女王の好物だよ――さすがですわ



Ⅷ.

グラジオラスの花束で
おれは割腹自殺をこころみる

〝ものわかりの良いオジサンのままじゃ
死んでも死にきれない――なんだそのツラは
師アランのヒューマニズム、か!

悔むべきことは多い
しかし申し訳がないという
気持ちのほうが、はるかに
勝っている
だから
公園のベンチに腰かけ
おれはビールを飲んだ
さようなら、と
つぶやくと
涙がどわっと出た
関八州
母さんは処女懐胎だった
かもしれない

キャピトル・ヒルのギリシャ料理屋で
「ギガンテスの目玉」なる野菜煮込みを
食ったが、あれをもう一度だけ食えたならば
覚悟はすっかり決まるに違いない――
おばあちゃん、明日は
お寿司を巻いてくれんかよ
ゲット・グローバル・アズ・ユー・シュッド
バット・スモーラー・ザン・ユー・ホープ
ユー・アー、ウーララ、オーララ
そしておれにもボーズのステレオ買うてや
国民年金納付の時期になると
あと一年
あと一年
涙がどわっと出る

裸足で家に帰るおれを見て
木彫りの猿がニタリと笑った――
白土三平先生の世界に迷い込んだようである
落人狩りの竹槍で
おれは殺せないぞ
火をつけてその焼け跡に
おれはかならず戻ってくる
当店はあと
十五分ほどで閉店となりますから、
おそれいりますがドリンクバーのご利用は
お早めにお願いします
どうぞお早めにお願いします
竹槍にお気をつけてお帰りください



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[跋]

少年(boy)がいつ男(man)になるか
知ってるか?
セックス(sex)以上に興味のあることを
発見したときだよ
デッキシューズ(deck shoes)を
履いてこい、そこは滑る(slippery)ぜ

長いことおれは帰りたかった、(I wanted
To be back for a long time,)故郷へ
  
小さな子供のようにおれは駆けだす
小さな子供のようにおれは転ぶ

そして仲間(my people)を見守るために
叶えられなかった夢(dreams unattained)
今日は金曜日でみな町に出ているから
ああ、輝いているみたいだ
(oh, it seems they shine bright)
小さな子供のようにおれは嬉しい



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博士論文草稿       大野南淀

そうして
6月
だから7月
7回も周りに回って
つまり、球体が もう

大工が屋根の上で槌を高らかに振るうとき
屋根の下で少女が
(少女が?)
本の中に溺れまいと必死に
そう 必死に
泳いでいる そう
山の中の草の中に漂う牛のように
(ように?)
だから もはや男とも女とも馬とも蛙とも
屋根を見上げる その

女が言うだろう
ねえ 今日の夕飯は何を作ってくれるの?
その女の声を正確に複写する、男が
男が 400メートル先で言うだろう
ねえ 愛と呼ぶに値するなんて
なんて 固い 呼び方 なの
それをビスケットの練り方の方へ沈めるならば
ああ ならば あ
あ 日の出も日没も音がするんだね
ぴょん っていう 
音だっぴょーん
鉄のような (そう、ようにだ!)
激しい回復の槌音が
そう 全てはようにだ!
激しい激しい肯定の音は 誰かへの
いや 誰かの耳元へ (難解なサイン 通り過ぎるサイン)
届けられるとも知らず肯定され
全ての接続詞がふいに接続を欲することを中断する
その一瞬に
ふいに
労働の放棄と勉学の促進が
慟哭するように矛盾
微笑を湛えた皮肉
日曜の朝の調和
な わけ
など なく
「ねえ あ・な・た そこには愛が欠けているのよ」
「そうかい、君 ジプシーには、
曜日の感覚などないのだよ、もっとも僕には
昼夜が…」
――風が吹くと
――吹いた風が
ねえ そうして だから つまり ああ もう あ つまり なんて いや…
接続を欲する装置が接続そのものになってしまい
「草がとても おいおいと鳴くものだから」
       とっくに     カラフルに
「あなたが蹴り棄てたサンダルが」
              だけなのよ
       どこの国だろう?

風が吹くと そこには
「っていうか今ってー麺類麺類した麺類って麺類の
ちょー ってかんじー!」
とか覗き回る蕎麦屋が儲かるから
おれは おまえは あ
「したがいまして…
AはBの息子になりますから
BはAの娘たりえまして」
契約書で ピザ屋が 過去を捨てる
吹いた風が 追いかけてくる

追いかけてくるな
ちょー ちょー ちょー チョー ちょーちょちょー

スパイダーマンって何人だっけ?
一物が二つあるらしいぜ
そりゃ 玉に傷ってところだな
ふざけるな
重すぎるだろうが
「キューが玉に当たる角度なのよ あ…」

何べん言わせればいい 重すぎるだろうが

少女が全開の笑顔で女になるとき
何かがむしろ乾いている
いいや 誰かが どこかで 乾いている

――そこには? 誰かが? どこかで? 
「オウチニカエロウヨイエガナクテモ」
「モットモットモットモット」
「オトコクサイシワガレゴエ」

彼女は缶詰を
ゆっくり 開けた
缶切りで ゆっくり
ほとんど 優雅なまでに
開けて 中のニジマス
が 草むらに解き放たれてゆく
皿など気にしない 彼女 だ
缶は逆さに安定している






真昼    藤本哲明

真昼である
が、アルミの
サッシが陽を
拒むのか、それとも
たんに外が暗いのか
浴槽で寝入って
なんども湯を
口に含む

起きだして
台所を這い
なにも
身につけず
煙草を吸う
ことすら
思いつかず
椅子に横たわって
そのまま
また、寝入って

ほんとうに
目が
覚めた時分
むしろ、
何もしないほうがいい
とはとても
云えず
薬缶に
火をかけ

隣で煙草に
火をつけると
あの、重い
眠りが
何であったか
わたし、を引き
剥がしてでも
訊いておきたくって

夜になる前に
ペンを
三本買い込み
薄いコーヒー
を啜って
いる、それを
絶望と呼べば
あなた、は
笑うか








大江健三郎氏のために    村松仁淀

「性交をテーマに小説を書いて
売れると思うのは間違っている
結婚式の日
髪がアップになった元同級生と
ビュッフェで、どうこう
それは、抽象的ではない
つまり、投稿者諸君よ
小説は、常に抽象的でなければ
ならない――あなたがた
フランス人の絵のように
漠然としていなければならない

わたくし自身、不鮮明に
書くことが課題なのであるが」
講堂全体に、ドッと笑いが
起こった
ぼくは、文芸の時代が終わった
と知った
ぼくは、弁護士になろうと
思い、翌日から少しずつ
ポケット判例を読み始めた
ああ、ぼくは最初から法学部に
行くべきだった
そして、ああ、ぼくは
『クレーヴの奥方』など
読むべきではなかった
ぼくは
留学なんか、したくはなかった









アメリカの薫り    大野南淀

中腹にしゃがみこむと
路傍には藪蘭ひやり

ゆっくり膝を伸ばしきる前に
リフトで一緒の年配の人

足並みそろえやっぱり一人で
登るの好きですかと笑顔と答えを

知って聞くのだから即席の業
頂いた熱いコーヒーともども申し訳なく

かたじけなく裾にこぼしたコーヒーすぐ乾く
下山は別ルートかな


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