何の咎もなく失語症のように
生きる、そんな誘惑を埋め込まれて
一年半、この誘惑を思いとどまらせる
さらなる誘惑とは一体、何だというのだろう
あと十年の間、失語症のように
生きる、そんな倫理をちらつかされて
二年、台湾ビールが円卓に美しく光る夕べ、この倫理を
思いとどまらせる熱い倫理はどこに
向かうというのだろう、国籍離脱者たちが
美しく微笑む夕べ、失語症のように
強いられたカルテに全てを任せる、そんな悪意を
カウンターに置かれて、四十三年
この悪意を思いとどまらせる正しい悪意は
誰の皿に取り分けられるべきだろう、円卓が回ると風が黙って語りだし
何の咎もなく失語症のように
生きる、そんな期待を跳ねのけて、看護婦に微笑む愉快な夕べ
おれはおそらく死なないだろう、おそらく、おそらく
十年もの間、何の咎もなく失語症のように
生きる、この絶望を思いとどまらせる
十年前の二十三年
熱い熱い希望はどのスプーンを駆け巡った
視線はやはり視線のままで
葉はけれども葉のままで
大阪城はそれでも大阪城のままなのだろう、無数の旗がはためいて
何の咎もなく失語症のように生きる
この誘惑を思いとどまらせる
血のように熱い熱い熱い誘惑はどこへと飛んでいく