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野蛮な休日     大野南淀

赤い夕方の
線路わき
夕方を
待つ

複数の枕木を
打ち抜く
犬釘
抜き取ろうと


切り取られた空虚さ
その傍ら
磁石 人間を指し示さず


毛細血管に流れる
スープには
ユーモアの爪
逆向けて
痛むスプーンが
指と指に
植えられて 信号

アラバマがもはやシベリアなら
おまえを覗きこむ池
撹拌する夏も
転進するだろう
指の動きとは 畢竟
爬虫類の中の哺乳類
池に映し出された一つの
寝息は
風が凪ぐと
四季を 無効に する

鍵かけられた
夕方
昼夜の逆転が
宙づりに
拘束
その向こう
赤い線路が
不気味なほどおっとりと
夕方を待っている












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鳩の翼    大野南淀

何の咎もなく失語症のように
生きる、そんな誘惑を埋め込まれて
一年半、この誘惑を思いとどまらせる
さらなる誘惑とは一体、何だというのだろう
あと十年の間、失語症のように
生きる、そんな倫理をちらつかされて
二年、台湾ビールが円卓に美しく光る夕べ、この倫理を
思いとどまらせる熱い倫理はどこに
向かうというのだろう、国籍離脱者たちが
美しく微笑む夕べ、失語症のように
強いられたカルテに全てを任せる、そんな悪意を
カウンターに置かれて、四十三年
この悪意を思いとどまらせる正しい悪意は
誰の皿に取り分けられるべきだろう、円卓が回ると風が黙って語りだし
何の咎もなく失語症のように
生きる、そんな期待を跳ねのけて、看護婦に微笑む愉快な夕べ
おれはおそらく死なないだろう、おそらく、おそらく
十年もの間、何の咎もなく失語症のように
生きる、この絶望を思いとどまらせる
十年前の二十三年
熱い熱い希望はどのスプーンを駆け巡った
視線はやはり視線のままで
葉はけれども葉のままで
大阪城はそれでも大阪城のままなのだろう、無数の旗がはためいて
何の咎もなく失語症のように生きる
この誘惑を思いとどまらせる
血のように熱い熱い熱い誘惑はどこへと飛んでいく






短距離電話    大野南淀

ガキの頃、短パンの頃、
ランディがホームランを放つと
自然と小さな日本人どもが奴の放物線を描く
太鼓腹に吸い寄せられて
そいつは、――ステレオティピカルでいて
むしろトロピカルな
猿みたいな東洋観の残像だったんだが、――
無邪気さすら叩き込むランディの
シェーヴィング・ローションの香りで
おれが実際に使いだしたのは、一人暮らし
始めて、淋しさを学び始めたころ
ランディはなぜかオクラホマ州上院議員になっていた
そいつも退屈な事だろうか、諸君?
不思議なものだ、諸君!
そういやあのインディアン、長い髭を生やしてた

  海の向こうの丘に電話する
  そんなことに逡巡していた
  5月のアスファルトの季節
  だったら一人で生き抜いて
  やるとおれは息抜きながら
  そこには誰もいないことに
  暴食しながら全ての歩行者
  が流れ去って今その裾野の
  灌木群に絡まって絡まって
  一人で生きるのは多大なる
  観察者達を要するのだから
  ああ、分からない、今度は
  それは一人で生きることで
  ない事、なあ丘の真ん中で
  了解されて、ああ、今度は
  短距離電話か短距離糸電話
  海はゆっくりと一滴の何か
  短い髭に絡まった塩が香る

鶏をマウンドに立てると
ボールを投げてくる代わりに
卵を産みやがる
転がる無数の卵が政治屋たちの
足をとる
とても滑稽なのである
ラジオ中継はないのかい、ハニー?
だとよ!

そうしてランディ・バースは合衆国次期大統領候補第51位となった
とりもなおさず1番ということである
なあ、どうだい、卵生まれのチンギスハン?

アラバマのインディアン・マウンドでは
勇猛果敢なインディアンの亡霊に
蒙古斑の痕跡が認められないか、その証拠探しに
学者達が躍起になっている
どいつもそろって蒙古斑を見たことがないから
モンゴルからおふざけ力士を呼び寄せた
おけつをペローンと
おけつをペローンと
むいて、殻でマウンドを補強した
勇猛残虐な蒙古人に短距離電話など必要ないさと
おれは泣きながら電話を自身の蒙古斑に乗せる
そいつは蒙古人たちが走破した距離に
充当したお荷物だからなんだ、おれは大平原に女の影を探す

親父は交通事故で死んだ、時速200キロで
悲しいのはそのことを悲しむスペースが
おれに1キロもないことだ
ランディの難病を抱えた息子は
どうなったんだろう?
おれは決して会うことのない彼の幸福を
願ってやまない
おれは海のこっち側にいる





トータル・エモーショナル・トラッシュ     藤本哲明

夏の盛りである
テーブルのうえに
線香立てがあって
煙草の吸殻が二つほど
捨ててあった
マッチも幾つか
たぶん蓮の匂いとかいう
線香の燃えかすも

欲情することが
煩わしいほど
欲情することを知って
延命してきたのだと云う

素晴らしい話なのかも
しれない しかし私はなんだか
欲情とか欲情に付随する殺意
とか心底 どうでも良い
と思い始め ここ三日ほど
風呂に入るのを辞めた

今度会うことがあれば
聞かせてやろうかとも思う
この八月の欝を
どうやって他人たちが
蔑ろにしたか




帽子、白線、沈黙――ハーマン・メルヴィルは彼女をどう?     大野南淀

天気の白い線に
刻み目が
入り、気持ちの
荒んだ男が、帽子
を目深に
かぶり、魂にまで、中国にまでも深く
降りてゆこうとする男たちの
ひさしを、殴り落としていく その
先には、港がある。穏やかな護岸の上に
誰かの穏やかな目が窓を、
開く。男に値札はぶらさがっているのか?
おれには分からない
おれには分からない
何も持っていないからだ
札束に興味が持てないほどに
穏やかなのか…

  湖的大海
  如女額動
  不波立静
  泥水寧清

帽子を買いに行く
途中、点線の
向こう側の運転手が、
貴族的にタバコをほうり捨て ぺこりと
頭を下げておれは性別を 捨てた
性別を取り戻すために
おれは帽子を買いに行く
はずだった はずだった
未来が おれに性別を与え
人間を奪っていく
シンプルに
シンプルに

帽子を買いに行く男女は
いつも無言だ
無言の中で何かに蓋をしている
彼らが買う帽子の窪みは
空気が今、詰まっているが
真空になる 
気をつけなさい
真空になる
同量の空気が、帽子で
カバーしきれない頬と唇に
吹き付けられるだろう
何かが追いかけてくるとしても
何かが追いぬいていくとしても
それはとても良いことだ

意味のない値札がたくさん埋められた
太平洋にたくさん浮かぶ墓標のように埋められた
綿花畑はとても白くて
だから 白くないところが
目立つ とても良いことだ
帽子を発明した奴は、今、
孤独に興味をなくして、今、
一人っきりで綿花畑の中で寝転がっている
とても罪深いことだ
とても罪深いことだ
おれが買う帽子には
ポリエステルが黙りこくっている
帽子を買おう
それは悪くないことだ
きっと悪くないことだ




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